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リトルヘブン
小峠の谷への入り口、大畝集落の畑にて

ヤマタノオロチ伝説の町
峠越えて入る牛飼いの村
その夕刻、大馬木地区小峠集落では、小さな煙が谷間のあちこちから上がっていた。
「そろそろすっか」。
日が暮れるのを待って、蔦川(つたがわ)家の大きいじいちゃんと小さいじいちゃんが家を出る。
「なあに、あっという間よ」。
小さいじいちゃんが藁の束に火をつけると、小川に架かる土橋の上に置いた。
燻っている間ちょっと川を眺めてから、
「こいで、おわり」
と、ふたりは家に戻った。

大きいじいちゃんの名前は英雄さん(82)、小さいじいちゃんは重美さん(58)。
ふたりが入っていったのは、四世代八人が暮らす茅葺屋根の家だ。 八月十六日、人々は送り火を焚き、送り団子を作る。十三日にお迎えした時と同じやり方で、団子はもち米粉を練ってきなこをまぶす。 今では貴重になった桐の葉に乗せてお供えするのが昔ながらのやり方だ。

裏山から湧き出した水が、ちょろちょろと涼しい音を立てて茂みを流れていく。蔦川さんの送り火が消えると、空も濃い藍色に変わっていった。
土橋の上に供えられた送り団子
土橋の上に供えられた送り団子

草刈りを終えて汗びっしょりの渋田富義さん
草刈りを終えて汗びっしょりの渋田富義さん
島根県東南部に位置する奥出雲町は、二〇〇五年三月に横田町と仁多町が合併して生まれた町だ。 旧横田町は、ヤマタノオロチ伝説の舞台として知られており、中国山地中央部に位置する。町の中心部横田地区から吐谷峠を越えると、大馬木、小馬木地区だ。 なかでも奥まった谷間に十二戸が暮らす小峠集落は、若い稲穂が青々と光る棚田が続き、ひな壇のように起伏に富んだ地形だ。

「うちには牛が六頭おるけんね、その分の草を集めにゃあなんねえ」。
日が暮れそうだというのに、田んぼの畦で草を刈る渋田富義さん(77)夫婦に出会った。 ふたりはブンブン唸るアブを振り払いながら、汗だくになって草をトラックに積んでいた。
「さあさ、よばれてくだせえ」。
富義さんが、自宅の玄関先でお茶をごちそうしてくれた。
「ずっと炭焼きで食うちょりましたがあ、七十歳ちょっとになってやめたけん、あとは牛と田んぼですわ」。

堆肥を田んぼに撒き、畦で刈った草を牛にやる。毎年生まれる子牛は、大切な収入源だ。 こうやって営まれてきた暮らしを守り続ける人たちが、小峠にはいるのだ。

蔦川重美さんが棚田でカメムシの防除剤を撒く
蔦川重美さんが棚田でカメムシの防除剤を撒く

島根県東南部に位置する奥出雲町 島根県奥出雲町

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発行:株式会社 山田養蜂場  編集:(C)リトルヘブン編集室
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