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リトルヘブン
若者が村の年長者から縄のない方を教わりながら過ごす、祭りの朝。こうして伝統行事「お神楽さん」を身近に感じるようになる

佐賀・福岡の国ざかい
脊振山中・三瀬村の秋は
氏神さんの神事で果てる
男たちが、藁(わら)の束を抱え込み、指を通して藁しぶを取り除いていく。 祭りに必要なしめ縄作りが始まった。
「今日は暖かくて、えかったなあ」。
素手で藁をしごきながら、福島正一三(まさふみ)さん(58)が呟いた。 藁が山積みされている納屋に朝日が差し込み、ひんやり湿気をおびた空気が少しずつ緩んでくると、男たちの顔も上気してきた。

朝もやの中で取り除いた藁しぶを燃やす
朝もやの中で取り除いた藁しぶを燃やす
女たちは、料理に忙しい。祭りの前にみなで食べる昼飯と神事後の直会(なおらい)に出すものを同時進行で用意する。 正一三さん宅に六人の女性が集まり、妻の美千代さん(57)を中心に煮しめや酢の物が作られていく。
「肉が足らねえ。昼はうどんにすっと、うどん玉も買うてきて」。
買い物に出る人、自宅まで漬物を取りに帰る人。立ち込める湯気の中、お喋りも弾む。

佐賀県と福岡県の境に位置する佐賀市三瀬村は、北に脊振山系の尾根が走る標高四〜五〇〇メートルの盆地だ。 一九八六年には、福岡市との間を結ぶ三瀬トンネル有料道路が開通し、二〇〇五年十月に五市町村が合併して佐賀市となった。
三瀬村の西部に位置する井手野地区には、現在二六世帯が暮らしている。「玉里神社」はこの地区の氏神様。 毎年十一月十五日に行われる「お神楽さん」は、地区住民が持ち回りで当番に当たる大切な行事である。 今年は井手野公民館の斜め向かいに並ぶ中西と呼ばれる茶講内(ちゃごううち・隣組の単位)五世帯が祭りの当番だ。

息を合わせて「せーの」の掛け声がかかる。男たち三人がくるりと回転しながら交差した。 ダンスを踊っているようだ。それぞれの手には、天井から吊るされた男性の太ももくらいの太さになったしめ縄の先端があり、ひと捻りするたびに藁を追加していく。 この太さをなうには、人間が藁の束と一体化して体全部で引っ張り合うしかない。
ダンスを踊ってるように大しめ縄をなう
ダンスを踊ってるように大しめ縄をなう

納屋の軒先に干されたトウガラシとタマネギ
納屋の軒先に干されたトウガラシとタマネギ
「今年は古代米の藁やけ、ないやすか」。
芹田文男さん(80)は、ひとり黙々と神事の「的射」(まとい)で使われる的をなっていた。 うるち米の藁に比べて、古代米の藁は長くて柔らかいのが特徴だ。
「祭り当番は五年に一度やけ、なかなか覚えられん」。
若い連中は、文男さんら年長者のやり方を見て覚えていく。 背中に太陽を浴びながら、地べたに座り込んで男たちがしめ縄をなう。神事の前の、大切な時間だ。
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発行:株式会社 山田養蜂場  編集:(C)リトルヘブン編集室
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