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リトルヘブン
会津盆地は春息吹き 玄関から一歩出っと、晩のおかず
畑で、ゼンマイを摘んでいた佐藤安子さんが、「オスが出てきて周りが安全だよってなってから、
メスが出てくんですよ。やっぱりゼンマイもオスがメスを守ってんのかなと思って……」
隣保班、幼名で呼び合う祭の準備青竹のぐい飲みに御神酒を注ぐ
福島伝統の味「凍み餅(しみもち)」
福島伝統の味「凍み餅(しみもち)」
舟木八重さんが庭の特製の鍋でゼンマイを茹でる

舟木八重さんが庭の特製の鍋でゼンマイを茹でる

畑脇の蕗の葉で鼻をかんで、「畑さ来っと、これがティッシュさなんだから」と、芦原ハル子さん

畑脇の蕗の葉で鼻をかんで、「畑さ来っと、これがティッシュさなんだから」と、芦原ハル子さん

  庭先の日当たりのよい場所に筵(むしろ)を敷いて、舟木益(ふなき えき)さん(85)が茹でたゼンマイを一心に揉んでいた。足を投げ出して、屈伸運動するように体を動かす。ふた幅手ぬぐいの頬(ほお)かむりに麦わら帽子姿だ。益さん世代の女性はみんな、二枚の手ぬぐいを縫い合わせ裏地を当てて作るふた幅手ぬぐいを何組も持っている。帽子の庇(ひさし)に当たる部分をちょっと立てるように被るのがオシャレなのだ。
 「ばあちゃん、今日はゼンマイが喜んどるわ」「おお、この天気なら早く乾くな」。車で五分ほど離れた地区に住む次女の安子さん(59)が、毎日のように手伝いに来る。畑一面に育ったゼンマイを安子さんが摘み、同居している長女の八重さん(60)が庭に設置した特製の鍋で茹でる。「小さいのは、綿帽子を被ってて可愛いんだわ。ゼンマイ摘みは私の毎年のお楽しみだ」。米袋ふたつ分を、安子さんは午前中で摘み終えた。
 「ばあちゃん、あさって雨降ったらヨモギさ摘んできて団子でもつくっか」「そりゃええなあ」。磐梯山(ばんだいさん)を眺めながら時間はゆったりと過ぎるが、手だけは休まずに動いている。
 福島県大沼郡会津美里町は、会津盆地の南西部に位置する。会津磐梯山や飯豊(いいで)連峰に囲まれ、地域特産の身不知柿(みしらずがき)やリンゴ、桃など果樹栽培が盛んで、山間に行くにつれ棚田が広がる。二メートルを超える雪が積もる豪雪地帯だ。
 五月初旬、三十四世帯が暮らす松沢地区は春の息吹きに包まれていた。八重桜、ラッパ水仙にドウダンツツジ、スミレやカタクリの花が咲いている。
   「都会は、玄関から一歩出っと金かかるべ。ここは一歩出っと、晩のおかずが採れんだ」。松沢地区の畑に通う芦原(あしはら)ハル子さん(77)が、日に焼けた顔で大きく笑った。道端をよく見れば、コゴミが顔を出している。屋根まであった雪が解けると、若葉のまぶしい春が来る。


福島県会津美里町 ●取材地の窓口
福島県会津美里町 総務課
〒969-6263
福島県大沼郡会津美里町字宮北3163
TEL:0242-55-1122(代)
●取材地までの交通
車を利用して東京から訪ねる場合は、東北自動車道で郡山JCTを経て、磐越自動車道の新鶴IC(ETC専用)を下り、県道22号線を通ると約10分で、役場のある会津美里町高田地域に着く。街の中心部から約5分で松沢地区。
電車の場合は、東京から東北新幹線で郡山へ約1時間半。郡山からはJR磐越西線で会津若松へ約1時間。会津若松からJR只見線で会津高田へ約20分。会津高田駅からはタクシー利用で約10分。
 

文・阿部直美
写真・芥川仁

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